郊外
中学一年の春まで住んでいた家は
福岡の郊外にある、青い屋根の6階建ての古いマンションだった。
まわりに高い建物があまりなかったから
うちのマンションはどこからでもよく見えた。
こどものわたしは、青い屋根のそのマンションを
まちのシンボルのように感じていた。
わたしの家族は、6階の606号室に住んでいたので
うちからの見はらしがとてもよかった。
毎日そこからまちの景色を眺めているうちに
ここ、青い屋根の古いマンションが
まちの中心で、ここからまちが始まっているように思えていった。
青い屋根、6階建ての古いマンション。
ここから離れて10年以上たつけれど
今でもわたしはここに帰る夢を見る。
そのたびに夢のなかのわたしは
「やっと帰ってこれた」と安堵する。
そんな夢をくりかえし見ているうちに、
このマンションがわたしの分身のように思うようになった。
わたしが毎日、絶え間なく呼吸をしていること。
あのマンションから、景色が、まちが始まって、ぐるりと循環していること。
わたしのからだとあのマンションは、ひとつになった。
いつかなくなるその日まで
絶え間なく呼吸は続く。